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ニット構造論の大系:ループが生む「伸縮」と「機能」の完全講義
織物が「縦と横の糸の交差」によって形を固定する建築的な構造であるのに対し、ニット(編み物)は「一本の糸が作るループの連鎖」によって成立する流体的な構造です。この根本的な違いが、ニットに圧倒的な伸縮性と、身体の動きに追従する柔らかさを与えます。
本稿は、Wardrobe Logicが解明してきた、Tシャツからセーターに至るニット組織の物理学を体系化したインデックスです。なぜTシャツはねじれるのか、なぜスウェットは暖かいのか。その答えはすべて、ループの繋ぎ方(構造)の中にあります。
I. ニットの三原組織:面、線、安定の基礎
ニットの基本は、表目と裏目の組み合わせによって、機能が全く異なる3つの組織に分化します。
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▶ 天竺(てんじく)の論理:ループ連鎖が担保する「伸縮性」と「斜行」の物理学
最も基本的な片面編み。Tシャツのボディに使われる理由と、宿命的な弱点である「ねじれ(斜行)」のメカニズム。 -
▶ フライス(ゴム編み)の論理:横方向への伸縮と「端の安定」の物理学
表裏交互の配列が生むアコーディオン構造。襟や袖口を締める「バネ」としての役割と、カーリング防止の論理。 -
▶ スムース編み(インターロック)の論理:両面表目の構造が担保する「滑らかさ」と「安定性」の物理学
2つのゴム編みを背中合わせに結合させたダブルニット。型崩れせず、滑らかな肌触りを実現する高級カットソーの基準。
II. 凹凸と通気性の応用:夏と冬の機能美
「編まない(タック)」という操作を加えることで、生地に物理的な凹凸を作り出し、通気性や保温性を制御する応用組織です。
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▶ 鹿の子編み(カノコ)の論理:タック(引き上げ)が作る「凹凸」と「通気性」の物理学
ポロシャツの代名詞。点接触による「肌離れ」と、メッシュ構造による「通気性」を両立させる夏の機能構造。 -
▶ サーマル(ワッフル編み)の論理:ハニカム構造が担保する「空気層」と「伸縮性」の物理学
ミリタリーインナーの傑作。幾何学的な凹凸にデッドエアを溜め込み、アコーディオン効果で肌に密着する冬の断熱構造。
III. 複合と高密度の極致:アウターへの進化
糸の種類を増やしたり、密度を極限まで高めたりすることで、ニットを「下着」から「アウター」へと進化させる高度な設計論です。
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▶ 裏毛(スウェット)の論理:3層構造が担保する「保温性」と「吸水性」の物理学
表・中・裏の3本の糸を複雑に絡ませ、パイル(ループ)を作る複合技術。ヴィンテージスウェットの暖かさの秘密。 -
▶ 構築するニット。ミラノリブがジャケットの「骨格」となる理由
伸縮するリブと固定する袋編みを交互に行うことで、ニットの伸びを止め、ジャケットのような構築性を実現する技術。 -
▶ ハイゲージニットの論理:30ゲージが担保する「第二の皮膚」と「成型」の物理学
裁断せず、一本の糸から形を編み出す成型編み(フルファッション)と、超高密度が生む光沢とフィット感の極致。
IV. 関連する素材と加工の論理
ニットの機能性は、組織だけでなく、素材(糸)や後加工によっても大きく左右されます。
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▶ フリースの論理:ポリエステルの起毛が担保する「断熱」と「透湿」の物理学
パイル編みをベースに、起毛加工と化学繊維(ポリエステル)の特性を組み合わせて生まれた、現代の防寒素材。